前回は「うさこちゃん」をきっかけに輪郭線に注目して、主に乳幼児向けの本をピックアップしました。とはいえ、子どもの本の海は広くて大きいですから、まだまだ「あの本も!この本も!」という思いが湧いてきます。なので、ぱたぱたと駆け足で、もうちょっと続けます。
堀内 誠一(1932-1987)
今夏、堀内誠一さんの生誕90年を記念した巡回展「堀内誠一 絵の世界」が、島根県立石見美術館で開催されました。言わずもがな、グラフィックデザイナーとして第一線で活躍する一方で、絵本作家として70冊以上の本を世に送り出した方。そして絵本のお仕事の特徴として、決まった画風におさまることのない多様性があげられる通り、展示された絵本の原画は多彩で、ただただ圧倒されるばかりでした。
そのなかでも、輪郭線に目を引かれたのが『こぶたのまーち』です。物語があって、ここで紹介している他の本に比べ対象年齢は高くなります。こぶたのるーは父さんにラッパを習っていますが、なかなか上手く吹けず、けいこがいやでたまりません。るーはどうやって苦手を克服するでしょうか。意表を突く展開に、太い輪郭線のきっぱりした絵がぴったりと思います。
柚木 沙弥郎(1922-2024)
谷川俊太郎さんの詩に柚木沙弥郎さんの型染絵という組み合わせ。一つの出来事が次の出来事を招くという具合に、つながって起こる事件の一つ一つを柚木さんが大胆にユーモラスに描かれました。輪郭線のために型を切り抜いて染める手間を思うと、細太の変化一つをとっても味わい深いですね。「きりんがすってん!」などの文字も型染めで入れられています。谷川さんは柚木さんの絵を見て「自分の中に子どもの心をいつももっているんじゃないかなあ」と語ったそうです。(『pen』2023年7月号)こちらも対象年齢は少し高め。
今秋から来年いっぱいにかけて、回顧展「柚木沙弥郎 永遠のいま」が全国5会場を巡回します。来年には島根にも来るようなので、原画を見るチャンスですね。
真珠 まりこ
「もったいないばあさん」シリーズの真珠さんですが、小さい子向けの『おべんとうバス』(ひさかたチャイルド 2006年)も大人気ですね。ここにあげた『おはようあさごはん』は、ひさかたチャイルドのあかちゃんえほんシリーズの1冊。旧版(2011年)は仕掛け絵本でしたが、新装版(2023年)では仕掛けがなくなりました。お茶碗やお皿の一つ一つにしかるべき食べ物が飛び込んで朝食が整う、この過程がたいへんかわいらしいのです。お箸ではなくスプーン&フォークですしね。空の器に何が入るか、あてっこするのも楽しいでしょう。パステルカラー調の淡くソフトな色使いなので、黒い線の縁取りが際立っています。
さて、子どもの生活に密着した本が登場しましたが、そうなるとしつけ向きの絵本が視野に入ってきます。
キヨノ サチコ(1947-2008)
「ノンタンあそぼうよ」(全23巻、3歳~)「赤ちゃん版ノンタン」(全9巻、0歳~)の両シリーズには、子育て現役時代にお世話になりました。第一作『ノンタン ぶらんこのろうよ』が出版されたのが1976年ということは、あと2年で50周年になるのですね! 抽選でキャラクターグッズが当たる「ノンタンまつり2024」が島根県では今井書店グループセンター店・学園通り店で開催中。
木村 裕一(1948- )
「あかちゃんあそびえほん」シリーズ(既刊18巻)にもお世話になりました。書影の片羽をあげる黄色いひよこの正面顔には、励まされたものです。(なんだか元気が出ませんか?)昨年35周年を迎え、新刊『ありがとうできるかな』『ごめんなさいできるかな』が出ました。
これらは、私は家で我が子と読んだことしかないのですが、ノンタンのふるえる輪郭線やピイちゃんたちのま~るい頭の輪郭線はいつまでも記憶に残るものですね。
おや、また日本の絵本ばかりに…。外国のものも!
バイロン・バートン(1930-2023)
「バートンの のりものえほん」シリーズの1冊です。上掲のほかは『とらっく』『ふね』『ひこうき』(すべて1992年刊)。とてもシンプルな絵ながら、先ず線路、それから走行中の電車のロングショット、車窓のお客さん、貨物列車、車掌さんや線路を直している人々、夜行列車、踏切、駅などが次々と描かれます。乳幼児が親しめる絵柄ながら、電車運行を広い視野でとらえていて、長く読める本だと思います。
形を明確にするくっきりした黒い縁取りばかり見てきました。変わったラインアップかもしれませんが、わかりやすい絵を求めるとき、太い輪郭線を目安にすることもあるでしょう?
最後は、エクササイズの終わりの深呼吸みたいに、2冊の自在に伸びていく線を眺めて〆に!
おまけみたいなものかしら…
〆のラーメンならぬお蕎麦は、谷川俊太郎さん&しりあがり寿さんというタッグ。「谷川俊太郎さんのあかちゃんから絵本」シリーズの9作目。赤いお箸を持った「ぼく」が、穴からでてきた一本のおそばをつかみます。するとおそばは、元気いっぱいにどこまでも伸びて自由自在に動き回り、ぼくを振り回しながら、みごとな一筆書きでひしめくお化けやにらみ合う2頭の恐竜を描いていきます。最後には、ぼくとおそばが対峙して…。脱力して笑いながら味わう線だけのシュールな世界です。
文字のない絵本。スケート靴をはいた赤い帽子の少女が、滑ります。カーブ、ターン、スピン、ジャンプ…白い画面に軌道を示す勢いのある線が重ねられていきます。このランダムな線で描かれる模様がほんとうに美しいのです。少女が転倒すると、氷盤がたちまち皺の寄った紙に変化。けれども、そこにほかのスケーターたちが滑り込んできて…。ハッピーな気分で読み終われること請け合いです。
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