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くっきり はっきり すっきり―線でわかりやすく―

ハンドルネームを 銀色の魚 と申します。絵本が好きで、ありがたいことに、読み聞かせのボランティアに参加させていただいています。

子どもといっしょに本を読むと、しばしば思わぬ気づきをもらいます。

モノクロ写真と文章だけの本を、数人の子どもと読もうとしたときのこと。一人の子が小声で「こわい」ともらしました。ほかの子たちは興味津々で写真絵本に見入っていたので聞き流してしまいましたが、なぜ怖いと思ったのか疑問が残りました。

―――色の失せた世界が不気味だった?

―――被写体が未知のもので不安を感じた?

―――わたしの顔が怖かった?(柔和な表情を心掛けていますよ!)

後からあれこれ想像してみましたが正解にたどりつけるわけもなく、小さな子にとってのわかりやすさや親しみやすさについてもっと強く意識しておこうと思うにとどまりました。

そんなとき、ふと目についた本が 「うさこちゃん」でした。わかりやすい、親しみやすい絵として世界中で愛されています。なにか新しい発見があるわけではないけれど、とりあえず「うさこちゃん」をとっかかりにスタート。

ディック・ブルーナ(1927-2017)

「ちいさなうさこちゃん」の表紙
ちいさなうさこちゃん
ディック・ブルーナ 文・絵/いしいももこ 訳
福音館書店 1964年

作者のブルーナさんは、「今日よりもっといいものを。もっともっとシンプルに」という言葉の通り、シンプルを追求し続けた絵本作家として知られています。シンプルな形、明瞭な輪郭線、少ない色数、単色の平面的な塗りなど、わかりやすさに直結する特徴をいくつもそなえた絵は、長年にわたって世界中で支持されています。(ブルーナさんの絵本がはじめて出版されてから去年が70年目でした。)これらのなかでも私がいちばんひきつけられるのは輪郭線です。フリーハンドで、しかも筆で描いていると知ったときは驚きました。

マンガやセル画のテレビアニメを見慣れた身には、輪郭線はあってあたりまえです。とはいえ写真には輪郭線は存在しません。色や明るさの変化から面を読み取り形を把握する過程は、見る者に任されています。ブルーナさんは、小さな子のために、この負担をできるだけ軽くしました。あらためて言うようなことではないでしょうが、自然にはない輪郭線を描くことによって、色や形の領域が整理され、わかりやすくなっているのです。

さて、輪郭線について書いたいきおいで、ここからは、魅力的な輪郭線を持つ小さい子向けの絵本をいくつか紹介してみたいと思います。

わかやま けん(1930-2015)

「さよならさんかく」の表紙
さよなら さんかく
わかやま けん/もり ひさし/わだ よしおみ 作
こぐま社(1977年)

『しろくまちゃんのほっとけーき』でおなじみ、1970年にはじまった「こぐまちゃん」シリーズからの1冊です。♪さよなら三角また来て四角 四角は豆腐 豆腐は白い…♪というわらべ唄に倣って、色や形からの連想ゲームが展開します。ブルーナの絵本がどれほど大きな影響力を持ったか、わかやまさんの絵からうかがえます。

山本 忠敬(1916-2003)

「ぶーぶーじどうしゃ」の表紙
ぶーぶーじどうしゃ 
山本忠敬 作 
福音館書店(1998年)

山本さんは『しょうぼうじどうしゃじぷた』の絵を描いた方、のりもの絵本の第一人者。型はちょっと古いかもしれませんが、いろいろな自動車を手元でじっくり見られます。写実的で精緻な絵柄の方ですが、この本では主な輪郭線を特に太く強調されていて、小さな読者への思いがあふれているように感じられます。

和歌山 静子(1940-2024)

「だんごころころ」の表紙
だんごころころ 
松谷みよ子 文/和歌山静子 絵 
童心社(1992年)

童心社の「松谷みよ子あかちゃんのむかしむかし」シリーズの1冊。文も絵も、省けるものはすべて省いてシンプルに作られています。主人公のおばあさんの顔には、太い線で描かれた眉・目・鼻・口そして皺がバランスよく配置され、いかにも昔話のおばあさんだと思いませんか。

「はしるのだいすき」の表紙
はしるの だいすき 
わかやま しずこ 作 
福音館書店(2003年)

次々と動物たちが走ってくる様子が、ユニークなオノマトペとともに描かれます。この本をはじめて読み聞かせに使ったとき、あまりにもみごとに子どもたちの視線を吸い寄せたのでびっくりしました。シンプルな表現が持つ力を、私に教えてくれた本です。

ひろかわ さえこ(1953- )

「いちにのさんぽ」の表紙
いちにのさんぽ 
ひろかわ さえこ 
アリス館(1999年)

こどもが歩いていくと、動物たちに出会います。そのたびに「こんにちは」とあいさつし、散歩の列に加わっていきます。仲間がふえるのって、それだけで楽しいことですね。どの見開きでも同じ位置にある基底線の極太ラインもいいかんじ。

福知 伸夫(1968- )

「とってください」の表紙
とってください 
福知伸夫 作 
福音館書店(2003年)

かめが木になった実をとってもらいます。いろんな動物と「とってください」「ありがとう」を繰り返すのです。福知さんは木版画家で、輪郭線は彫刻刀で削り出されたもの。この本の動物たちはだいぶリアルで、皮膚の皺も描かれています。月刊誌にはもう少しシンプルな作品もあり、単行本化が待ち遠しいです。

山口 マオ(1958- )

「わにわにのおふろ」の表紙
わにわにのおふろ 
小風さち 文/山口マオ 絵 
福音館書店(2014年)

「わにわに」は読み聞かせでも人気者。今年2月には月刊誌でシリーズ6作目が出ました。版画ならではの圧倒的存在感を放つごっつい「わにわに」ですが、やっていることは子どもと同じでチャーミングです。そのマイペースぶりにみんなが魅せられるのでしょう。

降矢 なな(1961- )

「ねーずみねーずみどーこいきゃ?」の表紙
ねーずみ ねーずみ どーこいきゃ? 
こが ようこ 構成・文/降矢なな 絵 
童心社(2018年)

「わらべうたでひろがるあかちゃん絵本」シリーズの1冊。降矢さんの色使いは、このシリーズではぐっと抑えられシンプルです。巣に帰るねずみを歌うわらべ唄に替え歌が続き、うさぎ、こぐま、女の子が登場します。1本のなかに細太の変化がある輪郭線によって、動物たちが生き生きと見えます。

同シリーズの『おせんべ やけたかな』では、太い輪郭線はおせんべだけをま~るく囲んでいます。その効果で、おせんべが際立ち、私は焼き網の上で浮いているのかと見紛うほどでした。輪郭線の巧みな使い方と思います。

柳生 弦一郎(1943- )

「ねられんねられんかぼちゃのこ」の表紙
ねられん ねられん かぼちゃのこ
やぎゅう げんいちろう 作 
福音館書店(2020年)

人体に関する科学絵本を長く作り続けていることで知られる柳生さんですが、小さな子向けのこんな本も描かれるのですね。かぼちゃの子が眠りに就くまでのお月さまとのやりとりが、いちいちかわいくてもうたまりません。この絵を見れば、ブルーナに捧げられた本と言うほかないと思います。

また、野菜の子が順番に眠りに就いていく『ねむたい ねむたい』(福音館書店、2018年)にも、かぼちゃの子は登場していますが、『ねられん ねられん かぼちゃのこ』ではブルーナ度がさらに高くなっているようです。比べながら読むのも楽しいかもしれません。

「わぁ、びっくり!」 日本の絵本ばかりになっていて、自分で選んだというのに驚いてしまいました。個人の好みでチョイスしたせいでしょうか? でも、改めてこうして並べてみると、あなたなら何か見つけられるかもしれませんね!

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