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「三つ子の目、百まで」・・見逃しがちな「子どもの弱視」のはなし

はじめまして。「おにぎり」と申します。見えない・見えにくくても「出来る」を増やす「視覚リハビリテーション」を中心に、聞こえにくい方が聞きやすくなる環境づくり、ものづくりのこと、写真のことなどが持ちネタです。

「三つ子の魂、百まで」という言葉がありますが、今回は魂ではなく、目のはなし。見落としがちな子どもの弱視の話です。

専門用語を避けて書いた結果、全体に長めの文章になってごめんなさい。その代わり、できるだけ分かりやすく書いたつもりですので、特に小さなお子さんと生活していらっしゃるオトナの皆様、最後まで読んでいただけるとうれしいです。お時間ない方は太字の部分だけでも読んでみてください。

「見ようとする」ことで上がる視力

人間の目は、生まれてきた直後は視力0.01ですが、病気等なければ、成長とともに視力は上がっていき、6歳ぐらいまでで、多くのこどもが大人と同じ視力になると言われています。「生まれたばかりの頃が一番よく見えて、年を重ねるごとに視力が低下する」というイメージを持つ方もいますが、実際にはそうではないんですよ。

ではどうやったら視力は上がるのでしょう。それはずばり見ようとすること。より細かく・はっきり・よく見ようとすることで、脳が発達していき、視力も上がっていきます

女性の目の前から矢印が出るかたちで、見るをイラスト化した絵

「それだったら、うちの子は絵本も好きで熱中してるし、困った様子もないから大丈夫!」・・いやいや、そこに落とし穴があるのです。

子どもは無意識に「片目で見ている」場合がある

やっかいなことに、子どもは両目で見ているようで、実は「片目だけで見ている」場合があります。「片目で見る」といっても、ウインクのように片目をつぶってるわけではありません。両目とも開いているものの、脳が片目の情報だけを優先的に使っているイメージです。実際は別ものではありますが「利き目」みたいなものと考えると、ちょっとイメージしやすいかもしれません。

残念ながら子どもは「右目で見てるよ」なんて言ってくれません。その片目ではっきり見た経験がないので比較ができず、もう片方の視力が低いことには気付けないからです。

前述のように、「視力は見ようとすることで上がる」ため、片目だけで見る状態を放置すると、よく使う方の目の視力は上がりやすくなりますが、もう片方は十分に発達しないまま。するとますます片方の目ばかりを使うようになり、見えにくい方の視力がますます上がらない…という悪循環が生じます。

このような見え方は「不同視弱視(ふどうし じゃくし)」と呼ばれています。ちょっと難しい言葉ですが、以下この言葉を使わせてくださいね。

大人になるほど問題が大きくなる「不同視弱視」

片目でよく見えているなら問題ないと思われがちですが、立体感や遠近感を正確に感じるには両目がはっきり見えている必要があります。片目の視力が上がらないと、これができないのです。子どもの時はよくても、乗り物の運転など大人に近づくほど問題は大きくなっていき、最終的には社会生活・職業選択にも影響してきます。

治療にはタイムリミットがある

さらにやっかいなことに「見ることの発達」にはおよそ6歳までというタイムリミットがあり、この時期を超えると、治療が難しくなります。つまり片目は一生弱視ということです。メガネをかけても良く見えるようにはなりません。

逆に言えば、片目で見るクセを持っていること、片方の視力が上がっていないことを小さいうちに発見でき、適切な治療を受けることができれば治療できるのがこの不同視弱視です。しかも6歳以下でも、6歳に近づけば近づくほど、治療の効果は上がりにくくなります。つまり小学校に上がるまでに治療が完了している必要があるのです。

そのため、不同視弱視発見の絶好のタイミングであり、かつある意味ギリギリのタイミングが「3歳児健診」なのです。

「子どもに答えてもらう視力検査」は精度が心配

視力検査といえば、Cマークの切れ目の方向を答える方法が一般的ですが、小さな子どもには難しいものです。答えやすい検査方法もありますが、「子どもに答えてもらう方法」はどうしても精度が低くなりがちで、結果的に不同視弱視を見落とす可能性が高くなります。発達障害や知的障害がある場合はなおさらです。

そこで登場するのが、客観的に視力(*)を測る検査機です。

3歳児健診での「客観的な視力検査」実施にはまだ地域差がある

オトナの方であれば、眼科に行ったときに、アゴを乗せて機械をのぞくと熱気球が見えた、という検査を経験したことがあるかもしれません。まさにあれが「機械を使った客観的な視力検査(*)」です。

検査機を覗き込んで目の検査をしているイラスト

←この検査、黙っていても検査が終わりますよね。まさに「機械を使った客観的な検査」です

この方法ならば、子どもに答えてもらう必要はなく、高い精度の検査ができます

しかし子どもに検査機でじっとしてもらうのは難しく、機械そのものも大きくて重いの検査会場に持っていくのも大変でした。

そんな中、この10年ぐらいで、1mぐらい離れたところにある機械を子ども見てもらうことで、客観的に視力(*)を測れる検査機が登場しましたこんな検査機です ※渡辺眼科ウェブサイトより)。このような検査機の導入で、前述の弱視を発見できる確率が上がったという報告があります。

私が住む島根県では、熱心な眼科医さんの尽力により、すべての市町村の3歳児健診で、視力検査(*)にこの検査機導入が達成されました。そうした自治体の3歳児健診では、不同視弱視を高い確率で発見でき、その分早く治療を開始できます。実際その検査機を使うことで、要精検率が2倍に向上したという報告があります(2022年度 第20回 日本眼科記者懇談会 資料より)。

その検査機、軽くて使い方が容易だということもあり、全国の3歳児健診での導入が進みつつはありますが、導入しているのは28.4%という報告があります(上記資料より)。導入はまだ道半ばなのです(2024年現在)。

目が不自由さオトナをサポートする専門家として思うこと

私は普段、目が不自由なオトナの皆さんのサポートをしています。

見えにくく&見えなくなっても、様々な工夫・グッズ・機器・制度を利用することで、出来なくなったことを再びできるようにする様々な方法があります(視覚リハビリテーションとかロービジョンケアと呼ばれてます)。見えにくく&見えなくても生きていく方法がたくさんあります。そして見えにくい・見えないこと=ダメなのではなく、そこには見えることとは別の価値があります。

とはいえ、今の社会は「見える人」とまったく同じ労力で、見えにくい・見えない人が不自由なく生活できるようにはまだなっておらず、現状「見える人に比べて不便」「より多くの労力が必要」であることは間違いありません

そんな世の中ですので、治療できるのにあえて弱視になるメリットは、そんなにないと思います。

治療できないならまだしも、早くに発見すれば治療できるので、ぜひこの不同視弱視を子どものうちにきちんと見つけてあげてほしいです

結論:要精検になったら&3歳児健診で客観的な視力検査がなければ眼科へ!

今回は不同視弱視を取り上げましたが、これ以外にもご家庭では見つけにくい弱視・・見えにくさや目の状態が色々あります。そしてここまで読んでくださった方なら、3歳児健診での目の検査の大切さを、きっとわかってくださったはず!

なので、3歳児健診で「要精検(要精密検査」と出たら、また機械による客観的な視力検査がなかった場合は、ぜひ眼科へ行ってくださいね。ちょっとの勇気、ちょっとの手間が、その後の子どもの人生を大きく変える場合があります。わたくし「おにぎり」と約束ですよ!

(*)機械で「視力」を測ると書きましたが、実際には「目の屈折度」を測っています。今回は分かりやすさを優先するため、あえて「視力を測る」という表現を使いました。ご了承くださいませ。

最後に!子どもの弱視問題に熱心な眼科医さんがメッセージをくださいました

今回、内容のチェックもお願いした眼科医さんが、みなさんへメッセージをくださいました!下記の動画では、より詳しく&分かりやすく説明されていますのでぜひぜひ。

3歳児眼科健診の最大の目的は「不同視弱視」の発見といっても差し支えありません。
おにぎりさんから皆様へわかりやすく説明していただきました。
2007年からの松江市の3歳児眼科健診で多くの弱視が見つかっています。
以下のリンク先にある動画を、おにぎりさんの記事を読まれてから見ていただくととってもわかりやすいと思います。

動画「弱視ってなあに」

野田眼科医院 野田佐知子

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